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Abema Prime で海外への出稼ぎが取り上げられていました。代表例として高収入で有名なオーストラリアとアメリカが取り上げられていて、それぞれの地域で働かれている方がゲストとして出演して自身の経験をもとに語られています。

海外なら同じ仕事で年収数倍に!? 「正直、もう日本では働きたくない」、オーストラリアがアツい理由(ABEMA TIMES) – Yahoo!ニュース

事例①オーストラリア―金属加工の仕事

オーストラリアで働かれている方は金属加工の仕事で日本で25万円だった月給がオーストラリアで手取りで80万円になったそうでほくほく顔。コメンテーターの方も「自分の周りでも今、オーストラリアにワーキングホリデーで行ってファームとかやってがっつり稼いでいる人がたくさんいる」と事例を補足。

なぜオーストラリアはそんなに給与が高いのかという問いに対し、「オーストラリアでは最低賃金がもともと高く、土日祝日など働くと時給が1.5-2倍になる」と述べています。また「日本では仕事優先みたいな感じだったが、オーストラリアでは基本定時に上がれるし、残業がないのでストレスフリー。正直(これを知ってしまったら)日本で仕事をしたいとは思わない」とも述べています。

上記の内容からまず、この方はマネージャーなどの正社員ではなくカジュアルというバイト形態の雇用であることがわかります。金属加工の仕事は手に職系の仕事でオーストラリアでは特に人手が足りないと思われるので、週5日働くことが出来るかもしれません。また、現在はコロナでどの業種も人手不足なので週5日働くことは難しくないでしょう。

ただし、通常はカジュアルは会社の業績が悪くなると真っ先に切られる雇用形態です。オーストラリアでは雇用主にある程度解雇の裁量が認められています(不当な解雇はもちろんダメですが)。週によっては1日も仕事がもらえないとか、アメリカなどと同様にある日突然、「悪いけど今日限りで。グッドラック!」と言われやすい不安定な雇用形態です。その時の経済状況や売り手市場、買い手市場といった就職状況によって、常に週5日働けるとは限らない雇用形態のため、有休もないですし、その反面土日祝日が2倍などの特典がついているわけです。金属加工の就職状況はわかりませんが、通常カジュアルで1年間ずっと週5日でフルタイム働けることはないと思います。ある月は40万円くらい稼げても別の月は20万円くらいしか稼げないなど。ある特定の月でなく一定期間で見ると、月の平均収入は正社員の人より若干少ないくらいの収入になるというのがカジュアルの雇用形態です(日本は派遣やアルバイトだと正社員の人比べてものすごく給与が低くなってしまうのがダメなところだと思います)。

また、ワーキングホリデービザで働いている場合、1つの雇用先で働けるのは最長6か月です。現在はコロナでオーストラリアはどの業種も超人手不足のためこのルールが撤廃されていますが、現在コロナからの脱却で急速に経済回復しているので、いつこのルールが復活するかわかりません。

この辺の説明が全くされていないのはメディアの勉強不足なのかあるいは意図的な印象操作に見えてしまいます。

事例②アメリカ-寿司職人

一方、アメリカで寿司職人として働かれている方の年収は7千万円から8千万円とのこと。この方は恐らく今、ご自身で寿司屋を経営されてアメリカで店舗を増やしそのビジネスの年商がその位であるということだと思います。「アメリカに渡った当時も年収は日本の時より2倍になったし、今のうちの従業員でも2年目の子で1,000万円超えている」と述べているのでそういうことでしょう。

いくらアメリカが物価や収入が高い国でもサラリーマンで年収7千万円とかいうのは大手企業の社長にでもならない限り無理だと思います。番組ではまず最初にオーストラリアでの従業員として働いている事例を出し、次にこの方の事例をサラッと入れていて寿司屋を経営していると述べている箇所はなく私の年収は「7,000万円から8,000万円です」というところだけ動画で出しているので視聴者は寿司職人として従業員として働いてそれだけ稼いでいるような印象を与えています。

事例③ニューヨーク-大工の仕事

また、NYで働かれている方も出演していて大工の仕事で月給は18万円。これは「大工という仕事は1年の中で3―4か月仕事がない時期があり、年収を12で割るとこの月額になる」と言うことだそうです。なので、仕事がある月は収入は30万円くらいではないかと想像できます。また、奥様と共働きのようで何とかやりくりしているようですが、それでも貯金が減っている状況だそうです。

NYでの月の生活費は家賃だけでも44万円、しかも現在は物価急騰中に円安も加わり円換算すると70万円にまで増えているという辛い状況だそうで、これも上2つの事例と対照的な事例として取り上げるために極端な事例を持ってきているような気がします。MCの方に「NYじゃなくてオーストラリアに行った方が良かったんじゃないですか?」と聞かれ「実はオーストラリアのメルボルンにもいたことがあって金属加工の方と同じようなことをしてたけど、オーストラリアも良い部分だけじゃなくて厳しい部分もたくさんあることをよく知っている。当時は英語も喋れなくて、できる仕事も限られ仕事探しにすごく苦労したのでアメリカであれオーストラリアであれ大変さに大差はない」と述べています。

取り上げられている事例はどれも極端、視聴数稼ぎのためのメディアの悪い癖

これまでの私の投稿でも、同じ職種、仕事内容ならオーストラリアでの方が全然稼げるということは何度か述べてきています。これ自体は間違いではありません。

同じ仕事であれば多くの人にとってオーストラリアに来るだけで給与は上がるでしょう。ただし、いくら大きく上がると言っても大半の人にとって恐らく30%~50%、運が良ければ2倍と言うこともあり得なくはないと思います。日本で年収500万の人ならオーストラリアだと650―750万円に上がるのでそれでも大きいですよね。ただ、上がると言ってもそんな程度で日本で500万円の仕事が海外では2,000万とかそれ以上になるというのは考えられません。いくら日本が衰退していると言ってもまだGDP世界第三位の国です。円安が進んでいますが、これが1ドル200円とか300円になればそのくらい給与も違ってくるかもしれませんが、ちょっと前まで110円台だったものが今はまだ140円台です。何倍にも円安になっていません。

2倍上がるケースとして考えられるのは日本での給与が極端に低く、オーストラリアでは人材不足として重宝されるケースです。日本で寿司職人という仕事はサービス業、低賃金、長時間労働、修行、見習い期間が異常に長い仕事だと思います。海外では寿司職人と言うだけで超貴重な存在で引っ張りだこになることが出来ますし、物価や給料が高いオーストラリアやアメリカに来れば2倍になることは考えられます。動画で「アメリカに初めてやって来た時もそれだけで給与が2倍になった」というのは確かにあり得ると思います。同様にIT企業での給与も日本とオーストラリアで同じような状況だと思います。

オーストラリアにワーホリでやってきて、1年間で貯金が100万円溜まったというような話が Youtube などで語られていると思いますが、それも全然可能だと思います。ただし、オーストラリア滞在期間中は食費や家賃など切り詰めるなどして、旅行などにもいかず仕事に切磋琢磨するなど必要なんじゃないかと思います。通常ワーホリで来る人は「オーストラリアの様々な場所を訪れてオーストラリアの大自然を感じたい」とか考えると思うので、旅費など大きな出費を続けてしまうと100万円貯金できるのかよくわかりませんが。。。

ITエンジニアで平均1,020万円、営業職で840万、コンサルタントで1,040万円

その他の事例としてITエンジニアの給料が平均1,020万円、営業職で840万円、コンサルタントで1,040万円など紹介されています。こう言われるとオーストラリアで仕事をゲット出来れば大抵の人が大幅給与アップを見込める印象がありますが、本当でしょうか?

まず、上の数字自体はそんなにでたらめでないように思えます。かなり現実的な数字だと思われます。今の為替レートで計算したら。。。先日日銀が為替介入をしたので今は1豪ドル93円台ですがその前は1豪ドル96円。しかし去年は80円台でした。その前は70円台、2020年の3月、コロナで鎖国を宣言した時は64円。豪ドルは6、7年ほどかけて60円台から100円台を行き来する通貨でもあるので、日本円に換算した金額には注意が必要です。為替レートにも注意する必要があります。

また、上の金額が妥当だとしても、もしこれが日本での出来事だとして次の事を考えてみてください。

日本で仕事をゲット出来れば年収が1,000万円近くになる。では、日本で営業職に就いている外国人、あなたの周りにいますか?同僚や取引先の営業の方で外国人の営業マンがいるでしょうか?私は日本でも外資系で10年ほど働いていましたが、1人、2人くらいあったことがあるでしょうか?日本語も流暢で日本人の考え方や常識、文化、嗜好、今どきの流行りものなどを理解し、漢字も読み書きできるスーパー外国人。外国で営業職をやるというのはそれくらいハードルが高いです。

オーストラリアの企業でも多くのアジア系移住者など働いていますが、多くは経理や人事、ITといった裏方の仕事で、専門知識があれば語学力などは多少は勘弁されるという感じの仕事です。一方、営業はほぼ全てオージーだと思います。やはり取引先の相手担当者もオージーですし、その人の心をつかんだり、失礼のないように接するためにも、言葉は当然ネイティブレベルとしてオーストラリアの常識や習慣、ビジネスマナー、考え方などを熟知していない移住者が営業職をゲットするというのはほぼないと思います。取引先が日本企業が多いとかであれば日本企業の担当者として仕事をゲットするというのはよくあると思いますが、オーストラリアに関しては日本企業の存在感はほぼゼロです。現在は中国や東南アジア企業に目を向けいているところがほとんどで、日本企業をターゲットにしている企業はほぼゼロでしょう。

コンサルタントにしても、当然英語力が必要なのは言うまでもないことですし、オージーの社長さんなどを相手に英語を駆使してビジネスの戦略などを相手に説明したり、説得させるというのは日本人にとっては相当ハードルの高いことではないでしょうか?

ワーキングホリデーで働けるのは1か所で最長6か月

上のルールは現在コロナでオーストラリア全体が極度の人材不足に陥っているので一時的になくされていますが(2022年12月末まで)、コロナからの脱却で急速に経済が回復に向かっているオーストラリアは予定通り年内で緩和策を辞めるのか来年1月1日以降も様子見で続けるのかわかりません。そうなると、6か月以内に成果を出して雇用主からビジネスビザなり、永住権のスポンサーになってもらうというのは現実的な話ではありません。

オーストラリアには世界中からたくさんの人がワーホリにやってきます。一方でそこからビジネスビザや永住権に繋げるのは非常に難しいとコロナ前までは言われていました。上述の通り、現在はオーストラリア政府はコロナによってオーストラリアから母国に泣く泣く帰ってしまった人や新たな移住者を呼び寄せようと、様々なビザの緩和策を打ち出しています。なので、現在ならビジネスビザや永住権へのハードルは下がっているかもしれません。しかし、これも1年後、2年後には再び移住者が増えすぎる状態になると思われ、そこで再び引き締めに入ることは容易に想像されます。

多くの人が日本からワーホリでオーストラリアにやってきていますが、実際にはジャパレスで時給$10とか$15とかいう最低賃金をはるかに下回る賃金で働いていたり、Youtube 等に上げられている動画は「現地のカフェで仕事をゲットできた!」というような内容ばかりです。現地のカフェなどで週5日1か月間働ければ月収で30万円から40万円くらい稼げるでしょう。でも、そういう人はごく一部の人で他の人からしたらうらやましがられる存在だと思います。Youtube で公開されている月収にしてもある特定の月だけですし、恐らく「過去6か月の収入」とか連続した月の収入を公開している人はいないのではないかと思います。上述の通り、週5日フルタイムでシフトに入れてもらえるというのは恵まれている方だと思いますし、実際には大半の人がかけもちでバイトしている人も少なくないのが現状です。

1か所の働き場所で週5日シフトに入れてもらえるようになるにはそのチームの中で一定の評価を得て中心選手にならないといけないでしょう。そして、そこからビジネスビザや永住権に繋げたという人は雀の涙ほどの人でしょう(20年前とかなら別ですが)。つまり、多くの人が1年から2、3年でオーストラリアを離れるわけです。

Abema Prime のこの動画を見て「何?自分も海外に出れば毎年(ずっと)年収1千万円近く稼げるの?」と思われた方は冷静になって情報収集をしてください。Youtube などで現在実際にワーホリされている方の動画などたくさん見ることが出来ます。それらをしっかり見ましょう。現在海外で暮らしている日本人がこの動画を見たらきっと「何言ってんだよ。そんな簡単に稼げるならとっくに俺(私)は大金持ちになってるよ」と思っていると思います。

とは言っても一時的にでも日本にいる時より多くの収入を稼げることが出来るのがオーストラリアであることは間違いないと思います。

海外で高収入を長期に渡って獲得するには

月並みな内容になってしまいますが、これはもうコロナ以前と同じです。昔から言われていることですが、海外で働くにはビジネスビザ又は永住権、英語力に職歴や仕事に関連する資格がモノを言います。これらに関しては私の投稿でも何度も述べていますので参照してください。

何故日本は物価が上がらず、海外はどんどん物価が上がっていくのか?

色々な方が様々な意見を述べていますが、私は日本とオーストラリアでの生活を踏まえて単純にマインドの違いによるところが大きいのではないかと思います。

日本は「値上げなんてしようものなら、お客さんに買ってもらえなくなる(お店に来てもらえなくなる)」。

海外は「お店の人に値下げしてもらおうものなら、売ってもらえなくなる」ということです。

「他店よりも1円でも高ければ安くします」というのは海外では見かけません。こんなことをやったらそれこそ1円値上げするのも大変です。結果、値引き合戦が始まり物価は上昇しなかったわけです。そして、その代わりに食品なら容量を減らすとか原材料を質の悪い安いものにするなどして値上げという選択を取らず、値段はそのままにしてコストを抑えて同じ利益を確保するという受け身の姿勢をこれまで30年間日本の企業は我慢に我慢を重ね続けてきたのだと思います。前回の投稿でもこの点で日本と海外の寿司について比較しています。

オーストラリアのお寿司 | Hiro-M’s

一方、海外は売る側の方が強く買う側は売る側の言いなりになりがちです。海外で安く仕入れる方法は、セールの時か大量購入して1個当たりの単価を安くしてもらう以外には基本的にありません。「セールでもない少量しか買わないのに安くしろ?ふざけんな、てめぇなんかに売ってやるもんか!喧嘩売るつもりなら二度と来んな!」と言う感じです。だから、需要が大きくて値上げできるなと思ったらどこも一斉に値上げをする。結果買う側はその中から少しでも値上げが少ないところを探して買うしかないという状況になります。

ほりえもんも動画で「パン屋の小麦の仕入れ価格が高騰していて、みんな値段を抑えようとするんだけど、そんな事せず値段上げれば良いんだよ。原材料の仕入れ価格が上がっているので値上げしました。それ一言言うだけで良い。お客さんがなんか言ってきても堂々としていれば良い。何でみんなびくびくしているのかがよくわからない。うちは値段を40円上げたけど、みんな何だかんだ言いながら買っていく」と言ってますが、本当にその通りだと思います。

また日本は貯蓄文化で海外はあるものは使う文化です。もちろん老後に備えてとか全く考えていないということではないですが、「ずっと貯めてばっかで使わないの?じゃあ何のために稼いでるの?」という発想です。だから消費欲が海外の方が高いです。1か月休暇を取って旅行の時にいっぱい使って満喫するとか1年で数回やるのが多いのがオーストラリア。アメリカやヨーロッパなどもそうだと思います。旅行でなくても趣味や好きなことにはお金を投じることを躊躇しません。

一方、日本はこの30年間、事あるごとに「将来が不安だから貯金しておいた方が良い」というのが続いていたと思います。バブルがはじけた時、金融危機の時、消費税増税の時、震災の時などなど。5年に1回のような感じでイベントが発生し、その都度メディアなどで将来の不安を募らせる報道がなされたり、討論番組でMCやコメンテーターが過激な発言で国民をあおっていたと思います(国民は我慢に我慢を重ねて質素に暮らしている一方、そういう方々は人気が出て収入も大幅に増やしていて富裕層の仲間入りを果たしていたんじゃないでしょうか?)。

日本は値上げを許容し、消費を増やして経済を回さない限り今の状況を変えることは出来ず失われた30年は40年、50年と続くのではないかと思われます。お金が回るということは自分にもその恩恵の一部が回ってくるわけです。海外ではそれがずっとうまく循環して物価や株価が上昇してきたんだと思われます。「私は日本を出ることは一生ないから物価が安いままでも構わない。むしろ物価が高くなるよりずっとこのまま安いままでいて欲しい」という方は別かもしれませんが。

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