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イチロー選手引退。感慨深く会見を見ました。本当にお疲れさまでしたの一言です。日本時代から見ていましたし、メジャーに移ってからも数々の記録を打ち立て、日米の野球関係者からも一流の評価をされていて本当にすごい選手です。

イチロー選手はこれまでの会見やインタビューなどではあまり色々話したりしない印象でしたが今回の引退会見は1時間半弱。日本時代からメジャーでの選手時代まで話せる内容に関しては記者の質問に気さくに丁寧に思ったことを素直に含蓄のある言葉で話されているように見えました。

とても興味深い内容で時間が気にならないほど見入ってしまいましたが、会見を見ながら海外就職にも言える、共通することがあるなと感じました。以下いくつかのポイントをあげ、イチロー選手のコメントの要約(青部分)、そしてそれについて私の考えや海外での就職に絡めたコメントを述べていきます。

①自分が熱中できるもの、好きになれるものを見つける

子供たちにアドバイスをという記者からのリクエストに対し、自分が熱中できるもの、好きになれるものを見つけてそれに向かっていければ壁にぶつかったときも乗り越えられる。見つけられないと壁の前であきらめてしまうこともある。なので、自分に向く向かないというより好きなものを見つけてほしい。

スポーツや芸術などの世界では特に好きこそものの上手なれと言いますが、仕事でも好きでない仕事や興味のわかない仕事はなかなかスキルや成績が伸びなかったりすると思います。海外に出るとよくビザ取りのためだけに好きでもない興味もない仕事について、結局長続きしないなんて話をよく聞くと思います。ただ、好きなだけでOKかというと、イチロー選手の有名な話で小学生のころはほぼ毎日バッティングセンターに通っていて、120km 近くの球を打っていたなど尋常でない努力と少年野球のレベルを超える球を打っていたことから、継続は力なり、石の上にも3年といったことも重要であることは間違いありません。

また、海外では自分は外国人でマイノリティ。海外の会社に就職して自分の評価を上げて昇進していくのは日本より大変です。そして、日本ではチームワークやモラルといった考え方、出る杭は打たれる的な風土がありますが、海外は逆でみな自己アピールがすごく、どんな些細なことでもすごいことを成し遂げたアピールをして上司から良い評価を得ようとしますし、個人プレーが中心な感じです。今やレジェンドのイチロー選手でさえ、メジャーへ移籍した当初は日本から来た誰かという感じで見下され扱いもひどく、とにかく孤独だったと言っています。

②記録に残る偉業を達成したことより、人から良くしてもらったことのほうが嬉しい

メジャーで色々な記録に立ち向かい打ち立ててきたが、そういうことは大したことではない。何故なら自分の記録はいずれ誰かが抜くから。昨年5月に試合に出られなくなってからシーズン終了までの過ごしてきた時間は誰にでもできることではないと思うので、そっちの方が自分では誇りに思う。昨年マリナーズからオファーがなくて終わっていたとしても全然不思議じゃなかったし、今のこの状況は本当に夢のようで信じられない。昨年オフの期間中、寒い中で来シーズンに向けての準備を神戸の球場でしている時は(まだどこからもオファーがなくて)このままひっそり終わるのかなと心が折れた。マリナーズからオファーをもらったことや今日こうやって日本の球場で出させてもらったことは本当に大きなギフトだと思っている。

いやいや、どれも他の人には達成できないすごい記録ばかりと私などは思ってしまうのですが、そういう偉業を成し遂げてきた選手がさらっとそのように言いのけてしまうのは正にレジェンドだなぁと思います。イチロー選手は常に最低でも50まではプレーするとメディアでよく述べていましたが、そんなイチロー選手でもチームを転々とするようになった40過ぎあたりから多くの不安があったことが想像されます。

海外はスポーツに限らずサラリーマンの仕事でもやはり実力主義。評価されてなんぼです。大げさな自己アピールや個人プレーが多くなりがちなのはそういった背景、風土があるからだと思います。イチロー選手は日本のプロ野球でも野球の本場メジャーリーグでも常にトップレベルの選手として認知されていた稀有な存在ですが、野球に限らず日本では一流の評価を受けてきた選手でも海外にわたってからは高い評価を受けることができず苦戦する選手のほうが数えきれないくらいいると思います。それは単なる実力の差だけでなく、重視されるスキルやプレイスタイル、戦術の違い、言葉の壁やコミュニケーション能力といった様々な要因が影響していて、プロスポーツに限らず海外での就職でも同じことが言えます。日本でも社風の違いや上司の考え方の違いなどでうまくいかないなんてありますよね。

③野球が楽しいと思ったのはプロに入って3年目くらいまで。後は苦しいことのほうが多かった。引退後は楽しめる野球をとことん追求したい。

今日の試合は涙がなく笑顔が多くみられたが、今日の試合は楽しめたかという質問に対しちょっと考えて、純粋に楽しいということではない。人前で打席に立つということは誰かの思いをしょって立つことで、それは(自分にとっては)それなりに重いこと。なので、一打席一打席毎回打席に立つことは簡単なことではないし、今日はすごく疲れた。やっぱり1本ヒットを打ちたかったし、(ファンの気持ちに)答えたいという気持ちは当然あったし、自分のことを感情がない人間と思っている人もいるようだが意外と持っていて、今日は結果を残せなかったけどそれでも最後まで球場に残ってくれていたファンを見て、(そんなことはしないけど)死んでも良いという表現は今日のこういうような時に感じることなんだろうなと思う。

この会見全般にわたっても言えますが、イチロー選手のすごく人間らしい部分が見られる部分だったと思います。異国の地で移籍当初は無名の状態から周りから揶揄されようがなんだろうが、自分のすべき練習、作業を黙々としてきたイチロー選手。マスコミにも愛想がよくなかったことが多いと思いますが、そんなイチロー選手から発せられるこの会見での一言一言はイチロー選手の人間らしさが如実に感じられました。

海外で就職するとなれば、当然親や兄弟は自分が遠くの地でうまくやっていけているか、友人や知り合いに海外就職に興味を持っている人がいれば、あいつがうまくやっていければ俺にもできるんじゃないかとか、また、自分に家族がいて子供もいれば海外で暮らしていくことの不安、期待などやはり様々な人の思いがあることを忘れてはいけないと思いますし、そうであるならやはり日本にいる両親、兄弟や知り合いに定期的に連絡をとって近況を知らせる、現地で苦労はしながらもちゃんとやっていけていることなど伝えておくべきでしょう。特に日本に住んでいる人からすると海外の生活がどんなものかは想像できないけど、慣れないことも多く大変など不安は大きいものです。

④難しいと思えることでも常に口に出して言うことが目標に近づく1つの方法

最低50まではプレーしたいと常に言ってきていたが、日本でプレーすることは考えなかったか?この質問に対してイチロー選手はきっぱりと No と言っています。理由は明かしませんでしたが、最低50までやりたいというのは本当に思っていたし、それができなかったので結果的に有言不実行な男になってしまったが、でも、そういうことを言って来なかったらここまで来れなかったと思う。だから、言葉にすること、できるかわからない、難しいと思ったことでも口にし続けるということは目標に近づいてくための一つの方法だと思う。

私も同感です。私も日本で外資系に就職し、オーストラリア人上司にオーストラリアで働きたいことを10年くらい言い続けていました。結果的にそれだけの年月がかかってしまい、実現したのが30代後半になってしまいましたが、今考えてみて、それは妥当、当然の流れで、現地の会社でいきなりマネージャークラスで現地の人たちを部下に従えてやっていくには自分に知識や経験、ノウハウが必要でどうしてもそれだけの時間が必要でしたし、でもそのおかげで永住権は移住してから3年ほどで取れましたし、現地ではそれなりの待遇でやっていけています。

20代、30近くでワーホリなどで移住してそこから這い上がっていくというのも一つの方法だと思いますが、私のように日本でしっかり下地を築いてから移るのもありだと思いますし、海外で長くやっていきたいと思うなら、むしろ今後はそのような方法のほうがうまくいくのではないかと個人的には思います。これまでのブログでも度々述べていますが、グローバル化が進んだ今、欧米やオーストラリア、ニュージーランドなどは世界中から移住、留学する人で溢れかえっているので、留学しただけでは現地で卒業後に仕事をゲットできる保証はありません。即戦力(言語、知識、経験、コミュニケーション能力)は益々求められるようになると思いますし、これらは学校で学ぶのは難しく(言語は別として)、働いていく中で身につけていくものです。

⑤人より頑張れるということはなく、常に自分の限界との闘い

これまでの生き様から皆に教えられることはないかという質問に対し、秤はいつも自分の中にあって、その秤を見ながら、限界を見ながらそれをちょっと超えていくということを繰り返していく。そうするといつの日かこんな自分になっているんだっていう状態になっていて、だからその少しずつの積み重ね、それでしか自分を超えていけないと思っている。一気に高みに行こうとすると今の自分とギャップがありすぎてその状態を続けられないので地道に進み続けるしかないし、進むだけでなく後退もあるので、それでも自分を信じて進んでいくのみだと思う。ただ、その進んだ道が正しいとも限らず、間違っていることもあると思うので、それはそういったことを経験しないと自分にとって何が正しいかはわからないと思うし、本当の自分に出会えないと思う。

どこの国であれ日本を離れて海外に出れば様々なハンデがあります。言葉だけでなく現地の習慣、常識、嗜好など全てがこれまでと違いますし、仕事となれば仕事の進め方、ビジネス慣習、法律など様々なことが同様に違います。当然現地の人はあなたを外国から来た人という目線で、現地の人と同じようなパフォーマンスでは悪い評価ではないにしろ良い評価をしません。イチロー選手のようなレジェンド的な偉業でなくてもあいつすげえと思われるだけの現地の人よりは2つぐらい抜けたパフォーマンスが必要になります。それは高度な技術ということになるかもしれませんが、それを身につけるための過程、イチロー選手が述べているようなコツコツ地道な作業を繰り返し、今の自分を少しずつ超えていくということに限ると思います。スポーツや芸術のスキルに限らず仕事のスキルも全く同じだと思います。

⑥クビにされるかの不安はNYに移って以降毎日会った

これまでに引退について何度か考えたことがあるかという質問に対し、引退について考えたことはないが、クビになるかという不安はNYに移ってからは毎日あった。

上述の通り、海外に出れば即戦力重視、自分はマイノリティで様々なハンデの中でより高いパフォーマンスが期待される。サラリーマンの仕事でもプロスポーツ選手ほどではないかもしれませんが、やはり実力主義です。

⑦移籍当初はヤジもひどかったが、結果を出せた時の敬意の払い方はすごい

アメリカのファンへ一言というリクエストに対し、移籍当初アメリカのファンはものすごく厳しかった。日本に帰れなんてヤジはしょっちゅうだったし、だけど結果を残した後の敬意、言葉だけでなく行動で示した時の敬意はすごい。なかなか受けれいてくれないけど、一旦認められたら(ファンとの距離が)ぐっと近くなる。

これはスポーツに限らず海外で暮らすとなれば、現地のコミュニティーや職場で受け入れてもらえるようになるまで、誰もが大なり小なり苦労をすると思います。以前アメリカ人とオーストラリア人の違いについて少し述べたことがありますが、アメリカは人種差別問題など抱えていますが、スポーツや芸術などで腕のある人に対しては人種関係なしにものすごく敬意を払う民族だと思います。

⑧メジャーに移る前に日本で学べることはたくさんある。急いで移るよりも基礎をしっかり作ってから移ることの方が大事

メジャーに移籍するにあたっての制度などでこうであったらいいなとかあるかという質問に対して、制度についてはあまり詳しくないが、日本で基礎を作る、将来メジャーリーグで活躍するための礎を作るという考え方であれば、早い段階で移るより日本でしっかり基礎を身につけてから移った方が良い。日本の野球で学べることはたくさんある。メジャーでは個々の運動能力は高いが基本的な動きやチームプレイなどは日本の中学生レベルのほうが高いかもしれない。チームの連係プレイなど日本では言わなくてもできることがむこうでは全然できないし、かなりその部分では苦しんだが、苦しんで結局諦めた。

これも仕事でも全く同じです。チームワーク、連携などはないとは言いませんが日本人のこういったところを数値化したら異常値だと思います。私もオーストラリアに来て最初この点ですごくストレスを感じましたが諦めました。これは日本という国が単一民族の国で皆が小さい時から同じような教育を受けているからこそできる代物だと思います。海外ではそんな国はまれだと思います。人種も様々、教育、文化的バックグランドも様々です。同じなんてことはあり得ないし無理です。言われなくてもできるような簡単なことが何度同じことを言ってもできないなんてざらです。日本ではツーカーという言葉がありますが海外ではまず奇跡のような感じだと思います。

⑨アメリカでは自分は外国人。外国人として様々な苦労や辛い体験をすることで人の気持ち、痛みが分かるようになった。

メジャー移籍後の最初のマリナーズ時代に孤独を感じるとよく言ってたが、その孤独は今日までずっと感じていたかという質問に対して、現在は全くない。アメリカに来て自分は外国人になった。外国人になって人の心を慮ったり、人の痛みを想像したりそれまでなかった自分がいた。こういったことは本を読んだりして知識として身に着くかもしれないけど、体験しないと自分の中で生まれない。アメリカに来て孤独を感じて様々な苦労をしてきたけどその時の経験は未来の自分にとっては大きな支えになっていると思う。辛いこと、苦しいことから逃げ出したくなることは当然あると思うが、エネルギーのある元気がある時にそれに立ち向かっていくことが人として重要なことでないかと思う。

総論

以前はスポーツ、芸術などのプロ選手とサラリーマンの仕事は全然違うという考え方が一般的だったと思いますが、最近はサラリーマンも競争激化や資格主義、生産性や各種指標(KPI)などで数値化され、ある意味プロフェッショナルを求められ以前より違いがなくなってきているのではないかと感じます。

イチロー選手の会見をまとめると
①好きなことを見つけてそれに向かってコツコツ精進していく
②マリナーズからオファーが来るまではどこからも声がかからず心が折れた。
③実現が難しいことでも口に出して言うことで目標に近づくことができる。
④自分対人ではなく自分対自分。自分の中の秤で限界を少しずつ超えていく。⑤アメリカでは自分は外国人、孤独、様々な苦労や辛い経験を経て人の気持ちや痛みが分かるようになった。
⑥メジャー移籍当初のバッシングはすさまじかった。結果を出せて初めて認めてもらえた。

こういったことは日本での生活でも当てはめることができるものありますし、海外に出ればどれもその通りと誰もが納得できるようなことです。イチロー選手のような偉大な選手が話すと重みがあって自分とは別世界の関係のないような話に聞こえますが、シンプルに解釈すれば誰かしら言っていたり、本などで書かれていることだと思います。ただ、イチロー選手もおっしゃっている通り、読んだり聞いたりすることと身をもって経験することでは理解度が違うと思います。

これから海外に移住したい、海外で働いてみたいと思われている方は是非会見の動画を Youtue などで見てみてください。ノーカット版(1時間25分ほど)がおすすめです。

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