2度目のビザキャンセルを受けて再び裁判を起こしたジョコビッチ選手。一度目は勝訴しましたが、今回は敗訴となりました。この結果、ジョコビッチ選手は大会に参加できずオーストラリアを去ることになります。
前回の投稿では、最初どのように入国許可を取得してその後何故入国を拒否されたか述べました。最初の裁判ではジョコビッチ選手の主張が認められ、「一度許可された入国を取り消すだけの十分な根拠がない」という理由でビザの取り消しは免れましたが、次にオーストラリア政府が打ってきた手は移民大臣に与えられた「ビザ取り消し」権限の実行。「公共の健康に関する安全、秩序、オーストラリア人の利害を害する」と見なされる場合に移民大臣の権限でビザを取り消せるというものです。
2度目の裁判の焦点は、移民大臣の権限の実行が合理的理由に基づいていたかどうか?
まず、「公共の健康に関する安全、秩序、オーストラリア人の利害を害する」とはどういうことでしょうか?ちょっと長いですが、 2度目のビザの取り消しをジョコビッチ選手に通知する際に以下の理由を述べています。
公共の健康へのリスク
- ジョコビッチ選手がワクチンを接種していないこと
- オーストラリア滞在中、ジョコビッチ選手からオーストラリアのコミュニティへ感染リスクがある
- ジョコビッチ選手から提出された書類から当人が最近コロナに感染したことが確認されている
- ジョコビッチ選手より本人からオーストラリア市民への感染リスクが極めて低い証拠として様々な書類が提出されており(私は専門家でないので内容については判断できないが)、専門家のお墨付きももらっていることが確認できるし、最初の裁判での判決も考慮しているが、それでもなおオーストラリア市民への感染リスクが残っていることは否めない。
- ジョコビッチ選手が公の場でワクチン接種に反対しており、ワクチン反対派の注目の的となっていること
- 保険省よりワクチン接種がウイルス対策の最善の方法であることは過去200年ほどの歴史の中でも証明されており、これまでのコロナ対策もワクチン接種で多くの人を感染から守っていることも証明済みで、オーストラリア政府もワクチン接種をオーストラリア市民に推奨していること。オミクロン株がこれまでのワクチンに対してこれまでのように高い効果を発揮できないにしても、特定の種類には引き続き高い効果を有しており、医療従事者への負担を抑えていること。また、専門家によると最新の結果からブースターショットがオミクロン株に対しても効果を高めていることが確認されている。
- 上記を踏まえてオーストラリアにおけるワクチン反対派を刺激する恐れがあり、ワクチン接種拒否をする人が増加する可能性がある。
- オーストラリア国内に点在するマイノリティで未だにワクチン接種ができていないコミュニティに感染リスクがある。
- ワクチン未接種者間でクラスター感染を引き起こす可能性があり、オーストラリアの医療システムへの負担の増加が懸念される
- オーストラリア入国前の14日間にヨーロッパで自己の判断で隔離ルールを無視してインタビューを受けたり、公共の場に出たりしており、外出時にソーシャルディスタンスを心掛けマスクはちゃんとしていたと主張したものの、SNSでマスクをしていなかったり、ソーシャルディスタンスを心掛けていない様子がアップされ、その後自分の判断が間違っていたと非を認めたことも懸念される。
- ジョコビッチ選手がテニスのスター選手で知名度、人気ともに高いことからオーストラリア滞在中も同じようなことが起きる可能性がある。最近コロナに感染したことから他者へ感染させる可能性も否めない。
- ジョコビッチ選手は2020年6月にもセルビアとクロアチアでチャリティーテニスを開催し、ソーシャルディスタンスを遵守しなかった結果、本人や妻を含めてクラスターを発生させたことがメディアで報道されている。ただし、この件は気になるものの、ジョコビッチ選手の判断でソーシャルディスタンスを守らなかったかどうかは確認できないため、今回の決定要因には含めない。
秩序へのリスク
- 新型コロナウィルスの流入がオーストラリアで生活する人々への甚大な脅威となっており、死や重大な疾患をもたらし、オーストラリア社会を混乱に陥れた
- 新規感染者数の増加により、医療システムへの負担が増大し、州政府、連邦政府の主導の下で対策を施すことが秩序を保つことにつながると考える
- よって、州政府や連邦政府の指示に従わないものの行動がコロナ対策に悪影響を及ぼす可能性がある。上述の通り、高い知名度と人気を誇り、上述の入国前の行動を鑑みれば、オーストラリアの秩序を乱す可能性が否めない。彼の影響を受け、ワクチン接種に反対するものや政府のアドバイスやルールを無視するオーストラリア人も増える可能性がある。また、ワクチン接種反対派によるデモ、集会などを助長する可能性もあり、市民の安全が脅かされることも懸念されるし、デモや集会を通じて市中感染を増やす可能性もある
オーストラリア人の利害
- ワクチン未接種により他者への感染リスクが増大し、健康リスクの増大につながりオーストラリア人の利害を害する
- コロナ対策にかかるコストは甚大で各州のヘルスシステムへの負担が増大し、集中治療室や病院のベッド数を圧迫している。ジョコビッチ選手はワクチン接種反対を公の場で表明し、来豪前に隔離ルールを無視したことなどを認めており、ビザの取り消しはオーストラリア政府のワクチン接種推奨というスタンスにも利があると考えられる。
- 上述の健康や秩序を守ることは大衆の利害にも一致する
- ジョコビッチ選手はビザを取り消すデメリットとして、経済的損失や政治問題化につながる恐れ、将来の全豪オープンテニスの開催にも影響がある可能性があることを述べたが、そうとは考えない。
- ジョコビッチ選手は既にオーストラリアに滞在し、コミュニティー内で一部不安が生じており、これに関してはもう拭えない。この点だけでもビザの取り消しはオーストラリア人の利害に一致すると考えられる。
- ジョコビッチ選手によって提出された専門家のアドバイスも含めた様々な書類と上記の点を比べた結果、ビザを取り消すことがオーストラリア人の利害により一致すると結論付けた。
- 当該決定はジョコビッチ選手によって提出された書類やビザをキャンセルしないという選択も含め様々な点から考慮されたものであり、移民大臣の一存で決められたものである
ジョコビッチ選手の弁護側の主張
- ジョコビッチ選手の感染させるリスクの可能性は非常に低いことは専門家のお墨付きもある
- ワクチン接種反対に関して移民大臣はBBCのニュースから引用しているだけで、本人に直接ワクチン接種に関してどう考えているかなど色々質問していない。
- BBCのニュースを見ただけでビザをキャンセルするなんて合理的ではない。ビザの取り消し決定に際しては様々ことを調べてビザを認める、認めない両方の観点から考慮されるべきだ。
裁判所の判決
- ジョコビッチ選手側の移民大臣の決定に合理性がないという主張は認められない。
- 移民大臣がジョコビッチ選手にワクチン接種に関してどう考えているかなど質問していないという点について、そもそも移民大臣が本人に直接質問しなければならないということはない。
- 移民大臣のビザの取り消し権限は本人に直接質問しなくてもできる。移民大臣のビザの取り消し権限は移民大臣に与えられた大切な権限のひとつであり、移民大臣の一存で決めることが出来る権限である。
- 今回の判決のポイントはビザ取り消しもしくは認可のメリットとか移民大臣の決定の是非ではなく、あくまで取り消し決定のプロセスに法律違反がなかったかあるいは合理性があったかである。今回の判決の詳細は後日公表する。
結果は下馬評通り
メディアでも昨日から今回ばかりは勝てないだろうという予想が大半でした。理由として
- 移民大臣のビザの取り消し決定を覆すのは難しい(伝家の宝刀?)
- 「公共の健康に関する安全、秩序、オーストラリア人の利害を害さない」証明が今回以外でも現実的にほぼ不可能
- とりわけ今回の場合、ジョコビッチ選手の入国前の行動や入国時の虚偽の申告に難がありすぎる
自分はスターだから多くの事は目をつぶってもらえるという過信があったのかもしれません。ただ、「The 正義」を振りかざす現モリソン政権の前ではジョコビッチ選手といえど強制送還になってしまいました。
オージーと言えば、陽気で気さくな感じ、大抵のことは「No worries!」と言って細かいことを気にしないというイメージを持つ人も多いかもしれませんが、一方でオーストラリアは一般の旅行でも検疫での荷物チェックが厳しかったり、審査、検査となると全く逆でものすごく厳しくなります。今回はとりわけコロナ禍での来豪ということもあり、ソーシャルディスタンスや隔離などこれまで守ってこなかったことが原因になっていることは明らかで大きな後悔となっているかもしれません。
ジョコビッチ選手の声明
「判決は尊重しますが大変残念です。関係当局と協力して出国の準備をします。ここ数週間自分の事ばかりが取り上げられてて嫌だったけど、これで皆さんが私の好きな全豪オープンテニスやゲームに集中できると思います。参加者の皆さん、関係者、スタッフ、ボランティアの皆さん、ファンの方々のご活躍、幸運を祈ります。最後に、私の家族、友人、チーム、サポーター、ファンの皆さん、そして親愛なるセルビア人の皆さん、いつも私の強さの源になってくださり感謝を申し上げます」
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