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日本でも伝えられていると思いますが、テニスのオーストラリア・オープン(全豪オープン・テニス)に参加するために来豪した現世界No1プレーヤーのノバク・ジョコビッチ選手(Novak Djokovic、セルビア人)がビザの取り消しを受け、弁護士を使って裁判を起こしています。理由はジョコビッチ選手の申請書類に疑わしい部分が色々あるということだそうです。

Medical Exemption を申請して豪政府の内務省から入国許可を取得

オーストラリアに入国する場合は、ワクチンを2回接種していることが原則必須です。これは海外からオーストラリアに入国する場合、外国人であろうとオーストラリア人であろうとマストな事項となっています。また、オーストラリア人が国内を州を跨いで移動する場合や単純に近所のレストランで飲食する場合などもワクチン2回接種済みであることがマストとなっていて、オーストラリア人の感覚からするとワクチン2回接種済みというルールは当たり前な感じになっています(もちろん、シドニーやメルボルンで一部の人達がワクチン接種の義務化に反対してデモを頻繁におこしていたりもしますが)。

ただし、例外的に身体的な理由によってワクチンを接種できないなど、いくつかのやむを得ない理由がある場合には Medical Exemption を申請してそれが認められた場合に限り、ワクチンを2回接種していなくても入国できるとされています。

今回ジョコビッチ選手が大会に参加するために入国許可を求める際に利用したのがこの Medical Exemption。条件のひとつの中に過去にコロナに感染し、既に抗体を持っていて他の人を感染させにくいと考えられる場合という項目を利用し、来豪前に申請し許可されたそうですが、入国時の審査で色々疑わしい部分があるという理由でビザを取り消されました。しかし、ジョコビッチ選手は弁護士を使って裁判を起こし、「短期間で十分な反論を与える機会もなく、一度与えらえた許可を取り消すほどの十分な根拠も認められない」という理由で勝利し、入国を認められましたが、豪政府は今度は移民大臣が有する権限を利用し「公共の衛生、市民の健康に関する安全、オーストラリア人の利害を考えて」再びビザの取り消しを決定しました。この措置では国外退去だけでなく、向こう三年はオーストラリアに入国が出来なるそうです。これに対してジョコビッチ選手は再び弁護士を使って裁判を起こしています。今朝(1月16日)裁判官による審問が行われ、恐らく今日中に判決が下されると思います。ジョコビッチ選手はこれに勝てないと明日からの試合に出ることは出来ず帰国することになります。

そもそもの問題は入国前のジョコビッチ選手の行動の問題?

オーストラリアに入国する際に必要な申請書類のひとつに Travel Declaration というものがあります。その中に過去14日間の旅行履歴を記す箇所があり、ジョコビッチ選手はオーストラリアに入国する前の14日間に関してどこにも旅行してないと記したそうですが、実際には母国のセルビアやスペインに滞在していることがメディアやSNSで伝えられています。ジョコビッチ選手は「これは僕の入国手続き関係を担当しているサポートチームが僕に代わって間違えて記述したものであり、当人も間違えを認めて入国審査官に謝罪してる。単純な人的ミスで故意に虚偽の申告をしたわけではない」とSNSで釈明してるそうです(なお、質問票にはこの質問の横に「虚偽の答えをした場合には罪に問われることもあると」警告されています)。

また、このニュースを機にジョコビッチ選手の来豪前14日ほどの行動がメディアや彼自身のSNSの投稿などから明らかにされています。

  • 12月14日-セルビアにてバスケットボールのイベントに参加。そこでたくさんの陽性者が出た。
  • 12月16日-上記を知りPCR検査を受ける
  • 12月17日-セルビアにてテニスのイベントにマスク不着用で参加。子供たちとの写真を自身のSNSに投稿
  • 12月18日-陽性結果を知り、インタビュー以外の仕事をキャンセル。ルールに従い必要な期間の隔離に入った。

今、問題になっているのが:

  • 17日のイベントに参加する前に本人は既に陽性結果を知っていたのでは?セルビア政府調査中。
  • 18日以降隔離に入ったと言っているが、スペインのテニスアカデミーにも訪れて参加していたことがテニスアカデミーのツイートで明らかになっています。現在スペイン政府がいつどうやってスペインに入国したか調査中です。

セルビアのアナ・バーナビッチ首相は「セルビアの法律はセルビア国内にいる全員に公平に適用されるべきであり、ルールを破ったものは許されるべきでない。彼がいつどこでPCR検査を受けたのかわかっておらず現在調査中。陽性結果を受けた後に(インタビューを受けるために)隔離せずに公の場に出たことは明らかにルール違反であるし、他の市民をリスクにさらしている。彼はセルビアの誇りでありセルビアのためにこれまで多大な貢献をしてきて皆から愛されているが、それでも一定のルールは守られなければならない」としています。ジョコビッチ選手はインタビューを受けたことを認め、「その時はインタビューを断ってスポーツ紙をがっかりさせることに引け目を感じた。外出時はもちろんマスクをしてソーシャルディスタンスを心がけていたが、今はその時の自分の判断が間違っていたと思う」とも述べているそうです。

そして、ドイツのメディアは提出されたPCR検査の日付に矛盾があることを述べており、オーストラリア政府もこの点について認識しており、虚偽の申告と考えているのではないかと思われます。

2度目のビザキャンセル

弁護士を使って裁判を起こし、一度は裁判に勝って入国が許されたジョコビッチ選手ですが、今度はその一度認められたビザの取り消し処分が行われ、再び弁護士を使って裁判を起こしています。ビザキャンセルの理由は 「公共の衛生、秩序、市民の健康に関する安全を害する可能性があり、オーストラリアの一般市民の利害にも一致する」ということです。これは例えば留学や旅行などでも、入国は許可されました。ただし、滞在期間中に犯罪などを犯したらビザをはく奪され強制送還になるというのと同じことだと思います。ジョコビッチ選手の場合は、犯罪ではありませんが、移民大臣に与えられている権限で 「公共の衛生、市民の健康に関する安全、オーストラリア人の利害を損ねる場合」に ビザを取り消すことができるというものを今回発動したと思われます。

メディアの分析ではこの移民大臣の権限を覆すのは難しいそうです。ジョコビッチ選手は 「公共の衛生、市民の健康に関する安全、オーストラリア人の利害を害さない」証明をしないといけないそうで、それを客観的に証明するのが弁護士でも難しく、よほどの切れる弁護士でない限りこの決断を覆すのは難しいそうです。ワクチン接種してなくて来豪前の疑わしい行動を見れば、それをひっくり返して更に公共の衛生、市民の健康に関する安全、オーストラリア人の利害を害さないという方法をどうやって証明するんだ?と言うことだと思います。

そして、この件以外にもオーストラリア政府は大会参加者2名のビザの取り消しを行ったそうです。ジョコビッチ選手のニュースの後に決定されたことから、「ジョコビッチ選手の件が何かしらの影響を与えたか?」という記者の問いに政府は「影響していない」と答えています。

テニス関係者の反応

今回のニュースに関して、オーストラリアのメディアはジョコビッチ選手に否定的なテニス関係者のコメントを報じているものが多いように思えます。

ナダル選手は「私は医学の専門家でないから確かなことは言えないが、現時点ではワクチンが唯一有効な手段だと個人的に思うし、どういう結果になろうとオーストラリアの政府や裁判所が判断したことが一番正しい答えだと思う。今回の件はワクチンをちゃんと2回接種すれば済むことだし、ルールは守らないと」と客観的な見解を述べています。また、後日のコメントでは「彼のことは尊敬しているし友達と思っているが、今回の件に関しては彼が間違ってると思う。」、「正直、この件に関して少しうんざりしている。彼がテニス史上最高のプレーヤーの一人であることに疑いはない。だけど、どんなにすごい選手でも1選手がオーストラリア・オープンという素晴らしい大会を超えることが出来ようか?オーストラリア・オープンは4大大会のひとつで多くの選手にとって非常に重要な大会。みんなこの大会に出るために準備や努力をして来てる。(ジョコビッチ選手のビザの件でなく)もう少し、他の選手やこの大会自体に注目してほしい。この一週間、ニュースは彼のビザの事ばかり。彼が大会に参加できるとなればそれはそれで構わない。彼が国外退去になれば。。。彼がいてもいなくてもこの大会は参加選手によって素晴らしい大会になる。」

世界ランキング4位のステファノ・チチパス選手(ギリシャ)は「オーストラリアが入国に関しものすごく厳しいルールを設けているのは知られていることだし、ワクチン接種なしに入国できる国でないことはみんな知っている。大会前に入国に関してのルールや申請に関しての情報はきっちり選手や関係者に示されているし、他の選手はそれを遵守して入国をクリアしているわけだから、彼だけが例外的に許されたら他の選手にもリスクがあるし、ちゃんとルールを守ってきた選手がアホに見えて迷惑。僕もワクチン接種に反対の考えだが、大会参加のために嫌々接種した。彼にももう少しそういった配慮がないと。彼の行動はあまりにも自分勝手すぎるし、その結果グランド・スラムの可能性にもリスクが出始めた」と痛烈に批判してます。

オージーの反応

ジョコビッチ選手のファンはオーストラリア政府の厳しい対応に否定的です。一度許可されたものを後から取り消しにするなんてあり得ないという感じで怒っています。

ただ、それ以外の人はオーストラリア政府の対応に理解を示しているように感じます。「我々もロックダウンや厳しい規制のもとに置かれずっとルールを守って耐え忍んできたのに、外国から来るスターは何もしないで良いじゃ困る」、「大会にとっては大きなロスで残念だけど、ルールは守らないと。我々にもリスクがあるわけだし」。

セルビアのアナ・バーナビッチ首相

上述の通り、ジョコビッチ選手のセルビア国内での先月の行動には厳しいコメントをしていますが、オーストラリアのビザキャンセルに関しては、「一度認められた入国許可を後で取り消すのは理解に苦しむ。なら何故最初から拒否しなかったのか?」とか「この問題を政治問題化することなく一人の人間として他の人間と等しく扱い、一人の人間が持つ権利を認めてほしい」、「彼は一般旅券だけでなく外交官用の外交旅券も保有しており、今回使用したのは外交旅券の方だと聞いている。であるならば、他の外交官と同様により一般旅券より広い権限があることを理解し、適切な対応をしてほしい」などと述べています。

一方、オーストラリアのスコット・モリソン首相はアナ首相と電話で会談し、「今回の措置はオーストラリア市民をコロナから守るためという見地からの判断で、我々の国境管理は差別なしに誰にでも適用されるものであるということを述べた。今回の件に関しては両国間で緊密に連絡を取り合っていくことを確認した」と述べています。

オーストラリアの現政権は中国ともバチバチやり始め、フランスとの原子力潜水艦の契約も一方的に破棄するなど、その強硬な対応が度々注目されていますが、同時に理由も明確に述べています。例えばフランスとの原子力潜水艦の場合は、当初世界中のメディアが「いきなりオーストラリアがフランスとの潜水艦製造の契約を破棄」という形で世界に情報を発信し、フランス政府も「オーストラリアは民主主義の国で契約社会の国だと思っていた。契約社会の国で一度サインした契約をある時突然一方的に破棄するなんてあり得ない。まして我々は同盟国。そんな国がそんなことをやったら国の信用問題にかかわるし、そんな国とどうしてうまくやっていくことが出来ようか?」と憤慨し、世界中にオーストラリア=悪者的なメッセージを吹聴していました。

これに対し当初は口を閉ざしていたオーストラリア政府も「我々はこれまで築き上げてきたフランスとの友情関係を壊すつもりはないし、今後も別の形で良きパートナーとして関係を続けていきたいと思っている。ただ、今回の件は完成時期が当初の2030年代という話がどんどんずれ込んで今は2050年頃になりそうだと言われていたり、建設費も当初の話からあまりにも金額が上がっていてオーストラリアの将来の財政に大きな負担になりそうなこと、そもそも潜水艦建設の目的が中国の南シナ海進出に対抗するためで中国が世界一になると思われる2030年頃までに完成しないのでは意味がない事を何度も懸念としてフランス側に伝えていたが、それに対する回答や改善策が全く提示されなかった。そんな中、アメリカからアメリカならこちらの希望する条件で提供できると言われた。アメリカの原子力潜水艦は世界一で、その技術は世界でもイギリスにしか共有されていない極秘中の極秘事項。当初は我々もアメリカの原子力潜水艦を所有できるなんて思っておらず入札で公募したわけだが、そのアメリカの原子力潜水艦がオーストラリアにも提供される、しかもこちらの希望の条件でということだったので、今回フランスとの契約を解除することにした」と公表しています。

フランス政府も懸念が伝えられていたことは認めたものの、「契約破棄をそれまでほのめかされたり口にされたことは一度もない。どれだけ強権の国なんだ」と顔に泥を塗られたかの如く憤慨していますが、だとすれば、オーストラリア政府の言い分は妥当なものだと思います。例えば日本でリニアモーターカーの完成が2030年頃と予定されていたのが、2050年ころにずれ込み建設費もオリンピックの時のように金額が当初の話と全然違うとなれば、当然、国民感情はあり得ないとなると思いますし、プロジェクトの責任者の責任が問われると思います。この原子力潜水艦の製造は入札で公募されドイツや日本政府も三菱とタッグを組んで参加しており、日本が最有力候補に挙がっていて日本の勝利が見込まれていましたが、土壇場でフランスに持っていかれました。フランスは自国が日本などを差し置いて自分たちが契約を取れるように、わざと勝てるような安い金額やオーストラリアが求めている納品期限に間に合わないとわかっていても出来ると言って契約を勝ち取り、オーストラリアがサインした後に金額をどんどん上げて行ったり、納期を先延ばしにして行ったのではとも考えられるわけですし、両国の言い分を聞くとその方がしっくりくるように思えます。

ジョコビッチ選手はヨーロッパに戻ってからも大変?

話が大分それましたが、今回、最終的にジョコビッチ選手の入国が許可され大会で活躍するにしても、大変なのはヨーロッパへ帰った後の方だと思います。現在、スペイン政府やセルビア政府が先月のジョコビッチ選手の行動に関して慎重に調査を進めており、場合によっては法律違反で罰せられる可能性があるからです。といっても、ジョコビッチ選手はこれまでにもソーシャルディスタンスを無視して大会後にパーティーを開いて参加した他の選手を感染させ、世間やマスコミからの追及にも「これが僕の性格」と開き直って大ブーイングを受けていたりしてるようで、ジョコビッチ選手のやんちゃぶりは有名な感じですね。今回の件もテニスファン、関係者からすると「またか」という程度の事かもしれません。本人も「弁護士の費用くらい、大会に参加できさえすれば優勝賞金から支払えるから痛くもないし」と考えているのかもしれません。

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