「オーストラリアへ出稼ぎ!」とか「オーストラリアめっちゃ稼げる!」、「オーストラリアは高収入!」などネットや動画で目にする、耳にすることが多いと思います。多くのワーホリ、留学生などが自身の経験を踏まえて「1か月で40万円稼いだ」あるいは「1か月で80万円稼いだ」というような動画までたくさん投稿されていると思います。
それに対して現地に在住している日本人からは「こういった話は嘘ではないが、誰もが出来ることでもない」とか「すごくうまくいった成功例でレアケース」など様々な意見、考えが述べられています。
ただ、日本に住まれている方からすると「それにしても何でそんなに稼げるの?」と思われる方、少なくないのではないでしょうか?
オーストラリアで稼げるのはコロナ後の要因とコロナ以前からある元々の要因の2つに分かれる
コロナ後の要因
まず、コロナ後の要因として、近年の「出稼ぎブーム」で言われている高収入の主な要因にもなっている要因です。
- 現在の超円安
- コロナ脱却後の深刻な人材不足、度重なる金利引き上げによるインフレ
例えば税引き前で月5,000ドル稼げた場合、本日(2024年1月28日)の為替は97円台ですので、約485,000円となりますが、コロナが世界中に蔓延し始めた2020年3月下旬辺りは64円ほどですので約320,000円となってしまいます。
また、コロナ脱却後から深刻な人材不足と国内の物価の急騰でコロナ以前に月5,000ドル稼げていた仕事なら現在なら6,000ドル以上は稼げるのではないでしょうか?
コロナ以前からオーストラリアに存在する高収入の仕組み
近年盛んに取り上げられている出稼ぎブーム。しかし、最近になって急にオーストラリアが高収入の国になったかというと、実はそうではありません。私は2013年にオーストラリアに移住してきましたが、当時から今と同じようにオーストラリアは高収入の国でした。当時は今と同じように1豪ドルが100円近くだったという事もありますが、物価もやはり今と同じような感じで日本の1.5倍から2倍近くしていました。
今と当時の違いはやはり Youtube が今ほど大衆化しておらず、今のように気軽に動画を編集したりアップロード出来たりするものではなかったこと(海外生活を動画で伝える人はほぼいなかった)、あとは日本は失われた20年から30年に向かって進んでいる最中で、多くの人にとって国内で何とかやっていくのに必死で海外(とりわけオーストラリアのような遠い国)に関心を持つ人が少なかったことだと思います。だからメディアのアンテナにも引っかからなかったのだと思います。
しかし、そうであるなら何故オーストラリアは高収入を実現できる国なのでしょうか?そこには日本とオーストラリアで大きく異なる給与に関する制度や仕組みがあるからです。
最低時給がめちゃ高い
最近のワーホリ、留学生が上げている動画でもよく言われていますが、オーストラリアの現在(2023年7月以降)の最低賃金は23.23ドルです。1豪ドル97円で計算したら2,253円。カジュアルという雇用形態なら(カジュアルは日本にない雇用形態です。詳細はこちら)、自動的に25%増しになるので2,816円。
最低賃金でこれだけの金額ですので驚異的ですよね。最低賃金は Fair Work Ombudsman と呼ばれる日本の労働基準監督署に相当するところが規定しています。最低賃金は毎年、年度末に見直され(←ここが日本と大きく違う)、ここ20年ほどは毎年上がり続けているのではないかと思います。私がオーストラリアにやって来た2013年以降も毎年、2~3%程度、過去2年は5%を超える上昇率でしたので、単純にここ10年程だけでも30%以上は上がっていると思います。2013年の最低賃金は16.37ドルだったようなので、最低賃金だけでもここ10年で約7ドル(約700円)上昇しているわけです。
Minimum wages – Fair Work Ombudsman
さて、仮にカジュアルとしてこの最低賃金(2,816円)で月160時間(40時間×4週間)働くだけでも45万円近くは稼げるわけです。「1か月で40万円以上稼ぎました」というような動画がたくさんありますが、フルタイムで働ければ最低賃金で雇われてもそのくらいは稼げるという事です。
割増賃金が豊富
こちらも動画で言われていることですが、土日に働くと時給が25%とか50%増し、祝日ならダブルペイなどとにかく割増し手当が豊富です(割増率は業界によって多少違います)。残業すればもちろん残業手当もしっかり払われますし、夜勤や深夜勤務手当などももちろんしっかり規定されています。私の以前の投稿でも紹介した金属加工の仕事で月80万稼いで注目を浴びたしょなるさんも、残業をちょこちょこやったり、土日に働いたりしてフルタイムで働いてそのくらい稼ぐことが出来たと言っています。
下の画像はホスピタリティー業界の割増し手当です。フルタイム/パートタイムの人の場合(Column 2=2列目)とカジュアルの人(Column 3=3列目)の場合に分けられます(カジュアルは日本にない雇用形態です。詳細はこちら)。フルタイム/パートタイムの平日の割増し手当がつかない通常の賃金を100%とし、夜7時以降とか深夜手当、土、日、祝日(Public Holiday)の割増率が明示されています。カジュアルの人ならフルタイム/パートタイムの更に25%増しです。祝日に働けば250%(2.5倍)!最低賃金でも7,040円の時給なり、仮に7時間働いたらその日1日だけで5万円近く稼げます。
何故オーストラリアと日本で給与の仕組みについてこうも違うか?
「オーストラリアって最低賃金が毎年上がって行ったり、色々割増し手当が付いたり。何でそんな感じなの?」と思われると思います。大きく2つの理由があると思います。
- 政府の予想インフレ率
- 各業界に根強く存在する労働組合
オーストラリア政府の予想インフレ率
まず、最低賃金が上がり続ける理由ですが、オーストラリアでは政府が毎年、年度末近くに翌年度のインフレ率を予測します。例えば「来年度の予想インフレ率は3%です」となると、この数字をもとに翌年度の最低賃金が決定されます。「来年度の予想インフレ率が3%なら最低賃金も3%上昇させないとね」という具合に(もちろん実際にはこんな単純でなく様々な指標や業界からのヒアリングなどなされると思いますが)。
オーストラリアは2000年代から中国とラブラブな関係で中国に農産物や資源などをガンガン輸出していました。それによってここ20年近くは日本の高度経済成長のような感じで基本的に右肩上がり。なので、物価上昇率の予測も上述の通り毎年常に上昇予測。
多くの業界に根強く存在する労働組合(ユニオン)
日本で労働組合と身近に関わりのある方。今はほんの一握りの人ではないでしょうか?日本の労働組合は形骸化してるなんてことも聞かれたりするくらいですが、オーストラリアには今でも労働組合(ユニオン)というものが根強く残っています。ただし、日本とは違って企業内に労働組合があるわけではなく業界内にあります。
これが何を意味するかというと、上述の政府予想インフレ率が3%と予測されれば「政府が来年度は物価が3%ほど上昇するって言ってるんだから、業界内で働いている人たちの給料もそれに合わせて上昇(昇給)させるべきですよね?」という感じで労働組合が決定し、各企業がそれに従う形になります。国として政府が最低賃金も上げますが、労働組合も毎年政府の予想インフレ率をもとに業界内で働いている人たちの給与を上げます。日本の定時昇給や春闘のような感じです。
でも、日本の場合、自社に組合が設けられていると組合の構成員も自社の社員ですし、社長は自分にとっての上司の上司だったりします。社内がコストカットの雰囲気だったりすれば、どうしても言いづらかったり忖度が働いたりなんてことも。。。
また、オーストラリアでは給与体系も職種やポジションによって労働組合が「このポジションでこの職種なら~円」というのをものすごく細かく規定し、各企業はそれに合わせて自社の給与規定などを作成しているわけです。例えば下の画像はホスピタリティー業界(ホテル、レストランなど)で使用されているものですが、職位(レベル1~レベル6)やどの部署で働くかに応じて給与が細かく決められています。レベルに関してもレベル1ならこういう仕事・作業が出来るなどジョブディスクリプションのように細かく規定されていいて、例えばホテルならヒルトンやマリオットなどの大手はこの規定を自社の給与規定に取り入れて採用や昇進時に使用していると思います。
オーストラリアでは業界ごとにこのような給与規定(アワードと呼ばれています)が存在していて、労働者の給与が保護されているという点が大きいです。もしこれに従っていない企業があり、従業員が Fair Works Ombudsman に駆け込めば、日本の労働基準監督署のように調査に入るので企業の代表者や人事担当者は気が気でならなくなります。
一方、日本は会社がそれぞれ独自に給与規定を設けていると思いますし、上のようにこの職位だったら給与は〇円と職位によって細かく明文化しているというところはほとんどないのではないでしょうか?「この職位だったら給料はこんな感じじゃない?」と現在の給与相場や、社内での同じようなポジションの人達の給料と比べて不公平感がでないようなケースバイケースな決め方だったりするのではないかと思います。
日本に労働組合は必要?
以上のように、日本とオーストラリアでは給与に関する仕組みが大分違うと思います。
「では、日本に労働組合が必要?」と聞かれれば、これは日本に住んでいる皆さんが考えるべき問題だと思います。そもそも「労働組合って何?」、「労働組合って何をしてくるの?」っていう人が大半でないかと思います。でも、そのような状態なら必要か必要でないかの論議すらできないと思います。これも過去30年間、日本が変わらない理由のひとつかもしれません。
ここで日本の労働組合の歴史的背景など説明しませんが、私は個人的にバブル崩壊というのが日本にとって様々な点で転換点になっているのではないかと思います。バブル崩壊によって従業員の給料を上げる余裕がなくなり、終身雇用の維持が難しくなったことで規制緩和が進みパートや派遣、非正規の人材活用によって雇用が変化し、労働組合が機能しにくくなったことも考えられます。当時の日本は「日本は規制でがんじがらめ。規制を緩和して競争を促していかないと」という論調が強かったと思います。最近はあれが日本をダメにした失われた30年の元凶としてその政策の中心にいた人も批判を浴びていたりしますが。
また、ホリエモンもそのような規制廃止論者だと思いますが、ホリエモンなら自分でビジネスを成功させどんどん大きくすることはできるでしょうし、そのためには自分の活動を規制するような意味のない規制は邪魔というのはわかりますが、ホリエモンのようなスーパーマンでない多くの一般の人にとっては何でもかんでも規制を取り除いてしまうことが良い事なのかは今の日本と世界の状況を比較するとわかりません。
オーストラリアが高収入なのは上述のような手厚い保護が要因で、決してオーストラリアのサラリーマンはみな超優秀だからとか生産性が超高いという事でないと言えると思います(日本とオーストラリアの両方で長いサラリーマン経験がある私の目から見ると)。
あとは国が中国と密な関係構築に力を入れて、オーストラリア企業が中国にガンガン輸出し、毎年物価が上がり続けても国民がそれを受け入れ、企業も昇給を受け入れてその上で会社を大きくしていくことに切磋琢磨していったと思います。一方、日本はバブル崩壊以降、企業は内部留保を増やし国民は余剰資金を貯蓄に回すので経済は活発にならず、またメディアなども将来の不安をあおって無駄な消費は控えるような報道をしていた面もあると思います。
「世界の中で日本だけがここ30年間給与も物価もほとんど変わっていない」というニュースの背景にはこういった事情があると思います。
討論番組を始めとするメディアの報道には注意
私は就職氷河期世代ですが、就活当時や90年代後半は「日本の終身雇用は良くない」とか「日本も海外のように成果主義を取り入れるべきだ」といった論調がビジネス雑誌やテレビの討論番組のような場所でも散々言われていました。その論調をサポートするために外資系に在籍している人を登場させ「アメリカでは~です。日本のシステムはおかしいですね」というのを吹聴して多くの人が同調していたと思いますし、実際に多くの企業でアメリカ型の成果主義が取り入れられたと思います。例えばソニー。ソニーの90年代以降の衰退や最近になっての復活を知っている人ならわかると思います。
でも、2000年代前半には「やっぱ日本の文化には合わない」とか「そもそも、日本とアメリカでは文化も社会の仕組みも全く違う。アメリカ型の成果主義を取り入れただけでは日本の企業では機能しない」と結論付ける企業がほとんどで、成果主義をやめる企業、あるいは自社に合うように修正してアメリカ型とは違う日本版成果主義にした企業がほとんどだったと思います。
こういうメディアのやり方は今も変わってないと思います。最近だと日本在住の外国人企業経営者だったり、外資系在籍者(経験者)を呼んで「アメリカでは○○です。日本のここがおかしい」とまくしたてるような感じで発言しているのをよく見かけますし、海外出稼ぎの報道を見てもそうです。現在はメディアであることが報道されても Youtube などで「いやあの動画のここが間違っている」などすぐ情報がアップデートされますが、当時はそういった手段がなかったので、日本全体が「海外ではそうなんだ。日本が間違っているのか」と間違った方向に洗脳されてしまったんだと思います。
その人だって外資系に在籍しているというだけで海外企業の人事と日本企業の人事を何社も見てきたエキスパートであったとは思えません。例えばゴールドマンサックス在籍とかいう肩書がつくだけで凄そうに見えてしまうと思いますが、本当にその人が世界に精通しているかは疑いの余地がありますし、アメリカ人経営者というだけでアメリカのビジネスに精通しているかは不明です。
考えてみてください。日本人サラリーマンなら日本のビジネスに精通しているかと考えればほとんどの人がNoだと思います。だから大部分の人がサラリーマンとして雇われ、毎月給料を対価に労働力を提供しているだけだと思います。ホリエモンのようにいくつもの会社を経営し(時に逮捕され)、あらゆる業界の重鎮とつながってコネクションを作り、ありとあらゆる事に知識武装をしている人は日本人でもホリエモンなどほんの一握りなわけです。
海外に出てみて自分の目や耳で見聞することが必要
日本の将来が心配な方、海外の事をもっと知りたい方。そうであるなら、自分の目や耳で海外を見聞して見ましょう。旅行でもワーホリでも留学でも移住でも。実際に自分の目や耳で外国を知り、日本との違いを比較することで何が正しいか正しくないかがわかると思います。そうすれば、メディアなどで言われていることに関しても「あぁ、それは全然違うね」とか「それは正しい」と自分で判断できると思います。そういう判断が出来るようになると、自分にとって何が重要かとか、自分の将来どうするべきかなど今まで霧のように覆われていた先(未来)が鮮明に見えてくるようになるのではないかと思います。
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