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2023年もあっという間に過ぎて行こうとしています。そんな中、先日移民局が2024年の移民政策に関しての戦略を発表しました。

https://immi.homeaffairs.gov.au/what-we-do/migration-strategy

上のリンク先から戦略に関するフルバージョン(3MB、99ページ)と概略版(At a glance、3ページ)及びアクションプランを見ることが出来ます。概略版は本当に方向性をざっくり示しただけのもので、具体的な政策などは書かれていませんのでフルバージョンをお勧めしますが、各ページ隅々までしっかり読む必要もなく(というか大部分がうんちくや歴史、背景の説明など)、必要な個所をピックアップすると以下のようになります。

戦略の背景

  • オーストラリアは移民に労働力を頼って来た。現在は国民の半数がオーストラリア国外で生まれている。移民政策はオーストラリアにとっても重要。
  • オーストラリアも高齢化は進みつつあり、更なる生産性の向上やそれに伴う生活水準の向上、経済発展のためには若い労働人口の増加が必要(←スキルや経験のない人でも良いというわけではない)。
  • 留学生はオーストラリアの経済成長やオーストラリアの社会構造に欠かせない要素であり、彼らが卒業後に人材市場でポテンシャルを発揮できることが重要(←生活していくのに十分な収入や住む場所の確保.。現状は大学や大学院を卒業した高学歴者の半数以上が卒業後、一番下あるいはそれに近いポジションの仕事に就く状況であったり、永住権を取るために何度も学生ビザを更新しながらオーストラリアに居続ける必要に追われることは良くない)
  • 現在は世界と移民の獲得合戦が繰り広げられオーストラリアが魅力的で選ばられるためにはビザのルールが明確、公平で手続きがスムーズなことも必要。
  • オーストラリアでうまくやっていくためには家族の支えも必要。家族ビザやパートナービザも見直す必要がある
  • ビザ(就労ビザや永住権)をちらつかせ労働搾取も。(都市部よりも地方。また同じ雇用主で一定の年数を働かなければいけないというルールが雇用主のいいなりを助長している場合も)

現在オーストラリアに住む人の50%以上はオーストラリア国外で生まれた人あるいはその親がオーストラリア国外で生まれた人だそうです。私の以前の投稿でも述べましたが、オーストラリアは今後マレーシアやシンガポールのように大きく3つの民族からなる国に変貌すると思います。

  • オーストラリア、ニュージーランド、イギリスからなる白人系
  • 中国および中華系東南アジア人(華僑)
  • インド、スリランカ系

私の肌感覚からするとここ5年くらいはインド、スリランカ系の人達の急増が著しく思います。以前は中華系の人達が職場などでも目立っていましたが、中国経済の停滞やインド経済の勢いに拍車がかかってきていることに併せてかインド、スリランカ系の人達もガンガンオーストラリアにやってきて仕事を奪っている感じです。更にここ1,2年は中東系の人も増えてきているのではないかと推測します。

具体的な対策

Skills in Demand Visa の新設

これまでのTSSの代わりとなるビザ(この新ビザが施行されるとTSSは廃止される)。永住権につなげることでき、このビザではなんと同一の雇用主の元という縛りはなく転職が可能(Any approved employer と記されているのでどこの企業でも良いというわけではなくビザのスポンサーを認められた企業)。現在の雇用主(スポンサー企業)と雇用契約を終了させた場合は180日以内に次のスポンサー先を見つけないといけない。また、現在の LMT(Labour Market Testing)の要件は複雑で現状に見合わないため廃止し、現状に合った簡略化したものを新たに創設する。

Skills in Demand Visa には大きく3つの Pathway が設けられる

  • Specialist Skills Pathway – 年収135,000ドル以上を給与として払う(スペシャリストとして高度な知識、経験がある人。こういう人たちは自分たちにより良い条件を出してくれる国を選ぶことが出来るので、優先して対応する。手に職系や一般的なオフィスワーク系のサラリーマンなどは対象外。ビザの発行に必要な日数は7日間)
  • Core Skills Pathway – 年収70,000ドル以上を給与として払う。現在のTSMITはこの新システムが開始された時点で Core Skills Pathway に統合される。こちらはサラリーマンでも申請可能(新たな職業リストに載っている場合)。
  • Essential Skills Pathway - 年収70,000ドル未満を給与として払う。具体策は検討中。給与水準の低い業界などは実際にはまだまだ人材不足が深刻だが、同時に労働搾取も多く十分な対策が必要。詳細は今後発表されると思われる。

技術独立移住ビザの改革

現状

  • 制度自体、複雑で不明瞭。移住者にとって魅力的でない→シンプルで明瞭な仕組みが必要。
  • 年齢や英語力、学歴など本来仕事のスキルと密接に関係するが、このポイントテストの制度ではそれらと関係のない項目までポイントの加算対象に含まれている。
  • 多くの申請者は公平感を感じていない

対策

  • 現在のポイント制の見直し、新ポイントシステムの創設が必要。

新タレント&イノベーションビザ

現状

  • 現行の Global Talent Program や Business Innovation and Investment (BIIP)ビザはあまり良い成果は見られず。
  • 多くの申請者の申請内容が不明瞭で申請要件の判定に時間がかかりすぎる。
  • また、多くの申請は技術革新などが大きく見られない小売業やホスピタリティー業からの申請でこのビザの趣旨にマッチしていない。

対策

  • オーストラリアが国として重要と考える分野を成長させるスキルを持つ者へのビザの発給。詳細は未発表。
  • ターゲットは高度なスキルを持っ実業家、投資家、研究者など
  • BIIPビザの発給は今後せず、この新しいビザに統合される。

学生ビザの改革

現状

  • ビザホッピング(ずっと学生ビザでオーストラリアに居続けること)対策。 Permanent Temporary を形成している。
  • コロナ後、留学生の増加は本当の留学生ではなくオーストラリアで働くことが目的の形だけの学生の増加と思われる(コロナによる制限緩和で学生ビザでも無制限で働けたため)。それを斡旋している教育機関も。
  • 学生ビザで働いている人たちが不当に低い給料で働かされている。この割合は益々大きくなっていてオーストラリアにとって良い評判にならないばかりか、人材市場にも悪影響を及ぼす。

対策

  • 英語力の要件引き上げ(←ビザ取り学校対策?)
  • 学校側の審査要件厳格化(←ビザ取り学校対策?)
  • 預金残高証明の金額の引き上げ

卒業生ビザの改革

現状

  • Permanent Temporary となっている人で最も多い層がこのビザで生活している人。
  • コロナ後、制限緩和で滞在期間をプラス2年と延ばしたが年数を増やしたからと言って就職やキャリア形成に大きくつながるという結果は見られず。
  • 現在このビザで申請できる年齢制限は50歳だが、永住権の申請の年齢制限が45歳であることを考えると45歳以上で卒業生をとっても永住権にはつながらず Permanent Temporary になる可能性が高い
  • ビザ発給までの時間が不明瞭。ビザ申請中はブリッジングビザ(この場合、学生ビザ=週24時間まで働ける)になるため、キャリア形成に不利。
  • 雇用主が永住権をスポンサーしてくれるか不明。

対策

  • 年数を増やすより、卒業生ビザで働いている間に Skills in Demand Visa に挑戦できるようにした方が卒業生にとってもメリットがあると思われる。
  • 年齢制限を50歳から35歳に引き下げ

コロナ後を見据えた大改革

コロナからの脱却後、オーストラリア全土で人材不足が叫ばれ、オーストラリア政府は様々なビザ緩和策をとってきました。それにより多くの移住者が世界中から再びオーストラリアにやってきましたが、一方で弊害も生んでしまったようです。今回の発表はそういった問題に対する対策やコロナ脱却後の将来を見据えた上での改革だと思います。大まかな方針としては以下のようになると思われます。

  • 若くて働き盛りな人材(スキルがない人は対象外)が労働人口や国の経済発展から考えても必要。
  • 英語力、年齢、学歴がその人の収入、キャリア形成などに大きく影響する。オーストラリアで十分な収入で幸せに不自由なく暮らしていくためにはこれらを兼ね備えた人材が必要。(技術独立、Skills in Demand)
  • 一方で国の技術革新や経済成長に大きく貢献する高度な専門スキルを持っている人は年齢は高めで収入やより良い条件を求めて移住する国を決める傾向にあるので、魅力的な条件やビザ発給のプロセスの速さなど別途独自のビザを設ける必要がある(Skills in Demand – Specialist Skills Pathway)。
  • 学生ビザや卒業生ビザは Permanent Temporary を生み出す要因になっている。学生ビザを隠れ蓑にしてオーストラリアでの就労を目的としているものも少なくない。企業側はビザをちらつかせて労働搾取しているケースも。学生ビザ・卒業生ビザから永住権に繋げるには2、3年もあれば十分。その期間に達成できなければ、スキルがある人材とは見なせない。

オーストラリアが重視しているのはスキルがある人。そういう人たちに十分な給与を払ってビザも与えて、永住、長く滞在してもらってオーストラリア経済に大きく貢献して欲しいという考えが見られます。

高度な専門スキルを持っている人材は Skills in Demand の Specialist Skills Pathway あるいは新タレント&イノベーションビザから申請、多くの一般サラリーマンは Skills in Demand の Core Skills Pathway からの申請になると思われます。

そして、学生ビザや卒業生ビザの保持者に対しても何度もビザを更新したりせず2、3年で就労ビザや永住権に繋げてほしい。それが出来ないなら若くても御免ということ、と明確に姿勢を示しています。

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