山口県阿武町の誤送金問題。阿武町の職員が町民463人に給付金を10万円ずつ振り込むところを誤って1人に4,630万円振り込んでしまったということだそうですが、「私にも市区町村が誤って1億円くらい振り込まれてくれないかな」と思ってしまうほど、非現実な話だと多くの人が思っていることと思います。そして、この件に関してはネットニュースを見ていると以下の2点が大きな問題点として指摘されています。
- 振込の際には振込手続きした職員以外の人(上司など)はノーチェック(だったらしい)。
- 送金手続きにはフロッピーディスク(FD)が使用されていた。
そもそもの一番の責任は振込手続きをした職員
私も経理畑の人間なので、仕事でスタッフが作成した取引業者への振込データをチェック・承認するというのはしょっちゅうあります。金額も1件あたり、数万円から数百万円など様々ですが、1回の振込作業で金額の総額は数千万円から多い時では億単位になることもあります。一般企業なら会社の規模にもよると思いますが、通常、送金手続きには以下のように複数の人がチェックします。
- 送金データ作成者
- データをチェックする人(データ作成者の上司など)
- データをチェックした人の上司など(1名、あるいは複数名)
その経験から言えることは、まず、この件では送金手続きをした職員が一番悪いです。ネットでは「職員は新人で振込の手続きにも慣れてなかった状態で、本人が可哀そう」という擁護のコメントも散見されましたが、本来463件の振込先のデータがあるはずなのに実際には振込データが1件しかなかったわけです。463行分のデータがあるはずなのに、1行しかデータがなければ普通誰だってパッと見でも「おかしい」と気づきます。経理の人間でなくても、営業マンでもです。400字詰めの作文用紙に1行しか書かれていないのと、最後の行までびっしり書かれているのとでは見た目でパッと違いがわかるのと同じです。
その誤ったデータが銀行側に渡ってしまったってことは、その職員は振込データがシステムで作成された際に全くチェックしてなかったと考えられます。これは一般企業の経理では考えられないことです。
もちろん、振込データが上司や他の人によって二重、三重にチェックされていなかったことも大問題ですが、まずは送金手続きをした職員に問題があります。そんな人は一般企業の経理では雇えません。毎週・毎月そんな誤送金されたら上司は生きてる気がしません(笑)。営業の人間なら売上実績で社員各個人は評価され、数字が悪ければ場合によっては降格、異動などもあり得ますが、経理・事務の人間ならやはり事務処理の正確性はその人のスキル、資質であり重要なわけです。4630万円の誤送金の責任なんて本人、上司を含めて誰が責任を取れるでしょうか?
適材適所。大事な事です。
フロッピーディスクは現実的には考えられないが、手段としては本当にあり得ないのか?
ネットで散見されるのは振込データ送信の際にフロッピーディスク(FD)が使用されていたということです。「今では誰も使用していないFDなんてものを使用しているような感じの所だからこんな事が起こった」的な批判をしているコメントもありましたが、そもそもの問題は上述の通り463件分の振込データがなければいけないところが、1件しかなかったということです。データを収納する箱(ファイル、FDなど)が問題と言うより、作成されたデータそれ自体がおかしいということです。
FDは90年代くらいまでに非常によく使用されていた媒体で今のUSBキーの前身のようなものです。2000年代に入りUSBキーが世に出回るようになったり、パソコンの性能の進化によって大容量のデータを扱えるようになってからはほぼ見ることはなくなったと思います。昔は普通に使われていたので、パソコンのハードにもFDを読み込むためのドライブが組み込まれていましたが、今ではそんなパソコンすら見ないと思います。
なので、多くの人が「フロッピーディスク?いつの時代」と思ったことでしょう。私もそう思いました。しかし、よく考えてみると私がまだ日本で働いていた10年ほど前にも実際に職場で似たような体験をした記憶があります。というのも、私の勤め先ではないですが、取引先がデータのやり取りの際にFDを使用していたわけです(私の部署ではありません)。社内の別の部署の人と効率化の話みたいなことをしていた時にその人はある取引先からはメールでエクセルファイルが添付されて送られてくるのでなく、FDが送られてきてそれを読み取るための端末(端末も先方から送ってこられる)に挿入して読み込むなんてことを言ってきたわけです。当時の私も「え、この時代にまだFD使ってるの?」とびっくりしましたが、相手先は日系企業で誰もが名前を知っているような超大手でした。
何故そのようにしていたかはもう覚えていませんが、セキュリティ関係の理由だったように思えます。当時はUSBキーからのウィルス感染や情報漏洩はビジネスの世界では結構問題視されていました。実際に今でも会社のパソコンにUSBキーを差し込んでも何も反応しない、会社で使用しているファイルをUSBキーに保存できないあるいはUSBキーに保存されているファイルを会社のパソコンやネットワークドライブに保存できないようにしているところもあると思います。行政とか国家レベルの超機密情報とかを扱うようなところではもしかしたら今でもFDを使っているなんていう所もあるのかもしれません。
良いか悪いか変わらない体質
もっとも、この阿武町の件はセキュリティ上の理由と言うよりも単に昔からの習慣だけだったのではないかと思われます。阿武町は山口県の中でも人口も3,000人程度の町のようなので、新しい技術を取り入れるなど変化に対応するのは難しいと思われます。同じものを何十年も使用している方が操作も理解しているし、システムを変更する際にかかる費用も発生しない。超コンフォートゾーンなわけです。
また、銀行側も地方銀行であれば今でも、オンラインバンキングだけでなくそれ以前から使用されていたその銀行専用のデータ送信システムも残しておいて、引き続き企業が既存の古いシステムを使ってやりとりしていけるように配慮しているところもあるかもしれません。
日本が未だに「紙ベース、ファックスも使用します、支払いは現金で」というのも同じで、これはひとつの日本の文化であるようにも思えます。「若い人は新しい技術を駆使することができるけど、高齢者はパソコンやスマホが使えないから」という考えです。
一方、海外は逆で「来年から全てやり取りはオンラインで」となれば、それに従うしかありません。新しいやり方を覚えなければ、社会で生きていくことは出来ません。高齢者も同じです。もちろん、最初は息子に手伝ってもらうなど実際にはありますが、基本的にはそういう感じです。
どちらが良いか悪いかはなんとも言えません。日本は超高齢化社会で世界でも稀にみる高齢者が非常に大きな割合を占めている社会です。一般企業の経理で働いてれば「エクセルで作業を自動化して」などと考えるのが当たり前ですが、例えば確定申告などで非常に多くの高齢者とやり取りしないといけない現場では、「そんなの家に帰ってパソコンから電子申告して」とか、「わからなければグーグルで検索するなど自分で何とかして」などとむげには出来ないだろうなと想像することも出来ます。
現時点では日本のやり方が世界から見ると摩訶不思議、奇抜に思えると思いますが、他の先進国や経済発展が著しいアジア諸国などでも日本並みに高齢化が進むと、日本のように社会的な弱者を保護する考え方が浸透していくようになるのかもしれません。
Comment
No trackbacks yet.
No comments yet.